死亡事故で執行猶予付きの判決を得ました。以前は前科さえなければ、普通に執行猶予がつきましたが、今はなかなか厳しいものがあります。遺族が法廷で切々と訴えたり、その遺族の代理人の弁護士が、検察官の横の席に陣取って検察官以上の厳しい意見を主張したりするからです。
ただ、今回は、前科もなく、自動車運転過失致死罪のほかには、酒気帯びや速度違反や信号無視などの悪質な交通違反の全くない事案でしたので、執行猶予は付く事案でした。 ここで特に言いたいのは、検察官の求刑を減軽した上で執行猶予がついたことです。裁判所は検察官の求刑に対して、実刑にする場合は大体求刑の8割の刑にするのですが、執行猶予を付けるときには、求刑通り宣告した上で執行猶予を付けます。例えば、今回は禁錮2年の求刑でしたから、禁錮1年6ヶ月の実刑になるか、禁錮2年で執行猶予3年の判決となるが普通なのです。ところが、裁判所は禁錮1年6ヶ月執行猶予3年の判決を言い渡したのです。なぜか?
本件の被害者が事故直前に車道を歩いていたので、被害者にも落ち度が考えられる事案でしたが、検察官は論告のときに、「歩行者が車道を歩くことは禁止されておらず、被害者に特段の落ち度はない」から被告人の責任は重く、禁錮2年が相当だと主張しました。しかし、これは明らかな誤りなのです。道路交通法10条2項は歩行者の歩道通行義務を定めており、被害者はこの法律に違反していたのです。私はこのことを指摘して、検察官の求刑は道路交通法の解釈を誤ってなされたものだから、これを減軽した上で執行猶予を付けるべきだと弁論したところ、裁判所が認めてくれたわけです。検察官が間違うわけがないと一般には思いがちですが、わざとかうっかりミスかはしれませんが、小さい事件ではあることなのです。検察官の主張を鵜呑みにしてはいけません。